以前のブログで空調負荷を用途別、単位面積あたりで想定して簡易的に求める方法を紹介しました空調機選定の考え方〜1〜。
しかしあくまで想定の数値であり、例えば壁の材質や厚さによって失われる熱量も違えば窓ガラスの面積が異なれば射し込む日射量も異なるので、あたりまえなのですが、単位面積あたりの負荷も建物ごと、さらには部屋ごとに異なります。
よって本来は個別に負荷計算をしなければなりません。
熱負荷をそれぞれの要素に分解して説明していくため説明は長くなります、3~4回に分けて説明になりそうです。
今回はその1として貫流熱負荷を説明します。

空調負荷をそれぞれの要素に分解
空調負荷を計算するときそれを要素ごとに分解して考えます。
主に以下に示す要素に分解します。
1.貫流熱負荷
2.透過日射熱
3.すきま風熱負荷
4.室内の内部で発生する熱負荷
機器発熱などは機器が多ければ負荷を追加して考えることになりますが厨房機器については熱量が多すぎて全ての負荷を空調機で処理することはできません、と言うかしません。
それをしようと思うと現実的に設置不可能な空調機の大きさになってしまうからです。
厨房は外気取り込み量が多いので、厨房機器からの熱は排気される空気とある程度一緒に処理されていると考え通常の負荷計算にプラスαで考え、ここは経験値になってしまいますが、おおむね400w/m2~500w/m2で考えて、スポット空調として作業者に向けてパンカールーバーなどで直接風をあてる考えで設計すれば問題になることはほとんどありません。
貫流熱負荷の基礎式
今回のテーマである貫流熱負荷というのは、壁や天井、床などから出て行く熱がどれくらいなのかを意味しています。基礎式は下記になります。
qn = A・U・ETD
qn:壁体の貫流熱負荷 [W]
A:壁・床・屋根などの面積 [m2]
U:その部位の熱貫流率 [W/(m2・K)]
ETD:実行温度差 [K]
熱貫流率が大きいほど出て行く熱が大きいということになります。
断熱がしっかりしている建物や部屋ほど熱貫流率は小さくなります。
上記の式自体は単純なのですがこれを求めるまでには手間がかかります。
Aの値は壁や床の面積なので、図面などから読み取ります。
Uの熱貫流率は壁の素材の厚みそれぞれの熱伝導率とその厚さを調べて計算していきますが、これが少しめんどうな作業かもしれません。
熱貫流率を求める式は下記になります。
U = 1/(1/h0+l1/λ1+l2/λ2+l3/λ3+ ‥‥‥ +ln/λn+1/hi)
U:熱貫流率 [W/(m2・K)]
h0:室外側壁表面での表面熱伝達率 [W/(m2・K)]
hi:室内側壁表面での表面熱伝達率 [W/(m2・K)]
ln:構造を構成する各材料の厚さ [m]
λn:構造を構成する各材料の熱伝導率 [W/(m・K)]
熱伝達率と実行温度差の値
具体的な値が示された資料が以下になります。
・外表面熱伝達率 (h0の値)

・室内側熱伝達率 (hiの値)

・熱伝導率 (λnの値)




・実行温度差 (ETDの値)

・壁タイプ選定表

貫流熱負荷を実際に計算してみる
以下の素材で構成される西側外壁の面積100m2の貫流熱負荷を求める。
吹付け硬質ウレタン 20mm
コンクリート 150mm
モルタル 20mm
タイル 8mm 以上で壁が構成されているものとした場合
qn = A・U・ETD より
Aの値は壁面積なので100[m2]
次に熱貫流率Uを求める。
U = 1/(1/h0+l1/λ1+l2/λ2+l3/λ3+ ‥‥‥ +ln/λn+1/hi)より
U = 1/(1/8.3+0.020/0.034+0.150/1.6+0.020/1.5+0.008/1.3+1/23)
= 1.16[W/(m2・K)]
次に実行温度差ETDを読み取る
ウレタン20mmコンクリート150mmより壁タイプはⅢ
西側の外壁なので実行温度差の表より3.8 6.4 8.8 12.0 となる。
最悪の条件である12.0[K]を採用する。
qn = A・U・ETD に値をそれぞれ代入すると
qn = 100・1.16・12.0 = 1392[W]
このような計算を各方向の壁と床、天井ごとでしていき、最後に合算して貫流熱負荷の値としています。